
4月30日に知覚の恒常性などを終わらせて,認知心理学のアウトライン(どのような領域があるかについての概観)を話す。連休を挟んで5月7日は認知の実質的な第1回としてパターン認知といくつかの記憶のデモ実験を話す。
リアクションペーパーを見るまでもなく,前回までとは学生の表情が違っているのが気がかりである。錯視などの知覚のデモを含めた話題は実感できる話だが,パターン認知は確実に人間の脳が行っている処理ではあるが実感できにくい内容になってしまう。心理学が扱う認識論はあくまでも実証的であるが,古来人間の持っている外界を捉える働きについての疑問は直観的な不思議さを内包しており,その不思議さは残念ながら実証できない。私が見ている世界と別の人が見ている世界とはおそらくは同じものなのだろうが,同じであることを実証できるのは,あくまでも操作的なレベルである。
外界の知覚はまだ操作的に理解できる範疇にあるのだろうが,私があまり好まないことばの一つである,「私も同じ経験をしましたから,あなたの気持ちがよくわかります」となると,クエスチョンマークの数ははるかに多くなってしまう。同じ経験というのがまずわからないし,何かを基準として同じ経験をしたからといって,そこで生じている感情的な変化が人間を越えて同一であるかどうかとなるとさらにわからない。
心理学で扱っている内容とは離れてしまうが,知覚や認知の問題はこのようなごく基本的な内容についての疑問を提起しているからこそ面白いと私は思うのである。そして,それは赤ちゃんがどのようにこの世界を認識しているかという知覚発達や認知発達の問題も提起する。授業では紹介していないが,山口 真美・金沢 創(編) (2008). 知覚・認知の発達心理学入門―実験で探る乳児の認識世界 北大路書房,同じ山口先生による新書,下條信輔 (2006). まなざしの誕生―赤ちゃん学革命 新曜社など,興味深い著書も少なくない。授業の中で扱われる内容をきっかけにして,興味を広げてもらえれば嬉しいのだけれど・・・。
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