2007年12月16日日曜日

認定心理士の基礎: 心理学研究法の重要性

今年度より,日本心理学会の認定心理士資格認定委員会の委員を担当させていただいている。昨日がその第1回で,前委員の方々と協同作業(新任委員のOJTを兼ねてのことだろう)で,多数の資格審査を行った。

認定心理士の資格そのものについての議論は様々であり,心理学関連で最も力のある臨床心理士をはじめとして,学会が認定する資格は本当にいくつあるのかわからないのが現状である。国家資格化の問題を含めて今後きちんと考えていかなければならない。それはさておき,今回担当させていただいて改めて気づいた2点を書き留めておきたい。

ひとつは,いわゆる心理学科でなく,他学科の卒業生からの申請が多数あったこと。資格審査は(日本心理学会の該当ページはこちら),「心理学の専門家として仕事をするために必要な、最小限の標準的基礎学力と技能を修得している」かどうかについてのものである。ここで強調したいのは,「最小限」という文言であり,いわゆる心理学科を卒業すれば自ずと同等レベルの学習を修了していることになるのだが,関連学科では必ずしもそうではない。ここに認定心理士という資格認定を必要とする理由の一つがあったことに,私は遅まきながら気づいたのである。

もうひとつは,今回の資格認定で保留や不合格になった応募者の多くが,基礎科目のうちの研究法や実験実習に不足が生じていたことである。基礎科目として設定されているのは,A.心理学概論,B.心理学研究法,C.心理学実験・実習の3領域である。それぞれ,「心理学を構成する主な領域に関する均衡のとれた基礎知識を備えているかどうかを判定」,「心理学における実証的研究方法の基礎知識を備えているかどうかを判定」,「心理学における実験的研究の基礎を修得する意味で心理学基礎実験・実習の経験をもっているかを判定」することが主旨である。

つまりは,大学での心理学教育の基礎はこの3領域にあることを意味しており,各論での深い知識は,こうした基礎領域の上に積み上げられてこそのものだということに注意して欲しいのである。今回保留となった応募者のひとりは,G領域(臨床心理学・人格心理学)で10科目ほどの履修を記録していたが,上記のうち,実験実習の履修内容に不明な点があったために認定できなかったのである。D.知覚心理学・学習心理学,E.教育心理学・発達心理学,F.生理心理学・比較心理学,G.臨床心理学・人格心理学,H.社会心理学・産業心理学の5領域は選択科目として設定されているが,これらのうち3領域で3単位以上で合計16単位あることが資格認定要件として定められているだけである。換言すれば,人格心理学や臨床心理学について全く単位を修得しなくても認定心理士としての要件を満たすことができるということである。

これは私の未だに消すことの出来ずにいる偏見に過ぎないのかもしれないが,心理学を勉強することは,すなわち人格・性格・臨床といった領域の勉強をすることであると考えている人が少なくないように思えてならない。この資格要件を見てもらうと,そうではなくて,研究法や実験的な方法論を修得することこそが,心理学の専門教育と不可分なのであることに気づくだろう。実際,資格認定で詳細に審査するのは基礎領域,とりわけ研究法と実験実習なのである。だからこそ,申請にあたってシラバスのコピーを添付することが義務づけられているのがこれら2領域だけなのである。

今月末には,資格認定の要件に若干の変更が生じて,申請用紙等も日本心理学会のウェッブページからダウンロードできるようになる。現行の資格認定基準は2012年3月まで生き続けるのだが,今回改定される認定基準でも基礎領域の重要性はいささかも減じることはない。それどころか,心理学概論と研究法とは,選択科目の3領域と同様に3単位でなく4単位の修得が必要となり,その必要性を増しているのである。

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